黄色マットのジム内で、キックとブロックを交わす2人の会員がスパーリング形式でトレーニングする様子

【マサノのひとりごと】

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2026.10.03[ブログ]#スタッフ#マサノ#コラム#キッズ

【マサノのひとりごと】

ReBORN経堂マネージャー・正野宗一郎(プロキックボクサー)

私ごとですが今月末にはわたくしもう39歳になります。ちょっと早すぎやしないかい?時の流れよ。それにいま10月なの?本当に?

38歳なんてもう、いい大人だ。38にもなりゃあ人生色々あって、それなりに経験値を積んできてるから多少どんな事にも対応できるはず。そのはずなのに、いまだにネチネチ引きずっている出来事が1つ。

今年の5月に辞めた小学4年生の男の子。

その子はいわゆる「急にキレちゃう」タイプの子供で、学校でも納得がいかないことがあると癇癪を起こし、泣き暴れるのでクラスメイトの中でも目の上のたんこぶ的な扱い。それを見かねた母親が「心を強くさせたいんです」という理由でジムにやってきました。

その子はジムではとびきり明るく、他の子達よりも大人への独占欲が強い子でした。
「コーチ!ねぇ、聞いて聞いて!」
他の子達を押しのけて、学校であった出来事を夢中で話す素振りは、僕を「絶好の聞き相手」と見たようで、僕もなるべく一生懸命聞くようにしていました。ただ、やはり、ちょっとでもミットでキツイ練習になると泣き出したり、ほかの子達の言うことに急に怒って暴れる瞬間も幾度となくありました。けれど、ゆっくり説明をして、なだめると落ち着いて話を聞き、納得もした上で冷静になってくれました。

キックボクシングにも慣れ、キッズクラスにもだいぶ慣れてきたある日。コーチである自分の中で決断する時がきます。それは、

「マススパーリングをやらせるか、やらせないか」

スパーリングとは、防具をつけた上で実際に相手と蹴りあったり、殴り合ったりする実践練習のこと。マススパーはそれのさらに優しい版。
親御さんにはスパーリングはやらせたい旨を聞いていましたが、本人はやりたいけど怖いからやりたくない、と言って、スパーリングの時は見学していました。
けれど、今回は迷っていたのでやらせる事にしました。

コーチの僕としては、当初、その子にはスパーリングをやらせないつもりでしたが、少しずつ癇癪も起こさなくなり、対人練習をすることで、

(いつか大人になった時に、殴られたり蹴られたりすることに落ちついて対処する術を覚えておけば、大きくなった時の彼にはおおいに生きるかも)

と思って悩みましたがその日やらせることにしました。

そして、防具をつけて、スパーリングの準備をさせます。
最初は彼も緊張の面持ちでしたが、徐々に気持ちも乗ってきます。
前からディフェンスなどの動きは教えていたので割とすんなり入れました。
そのままほとんど当てないスパーリングをやって慣らしていき、徐々に軽く当てていきます。
パチッ。ペチッ。パチン。
強さは「10%」と決めて、優しくやっていたのですが、子供たち同士もなんとなくしっかりしたスパーリングをしていきます。
しばらくして、彼を見るといつの間にか目を真っ赤に腫らし、いまにもこぼれ落ちそうな涙を堪えてスパーリングをしています。
本当は今すぐにでも止めて、労ってあげたいところですが、(もう少しだ)(もう少しだけやってごらん)と我慢します。すると、

「うわぁぁ」そうやって泣き喚いて立ち尽くしてしまいました。
まだまだこれからのタイミングで泣いてる彼に、心を鬼にして言います。
「せっかく上手く戦えてるじゃないか!ここを乗り越えれば強くなれるチャンスなんだぞ!なんで自分で諦めちゃうんだ!」

言われた彼は泣きじゃくって座ってしまいました。
スパーリングの授業から外れ、一息ついた彼に、ゆっくりと話します。彼は言ってることを理解し、納得はしてくれた様子でした。そしてレッスン終わりのフリータイムではニコニコと遊んでいたので、「よかった…」と胸をなでおろしていました。また笑顔でジムに来てくれたらいいな。。

そこから彼は一回もジムに来ることなく、辞めてしまいました。
手続きにきた親御さんが話してくれました。「スパーリングがよほど怖かったそうで、ジムに行こうとしても途中で泣き始めて帰ってくるんです・・」

とんでもないトラウマを植え付けてしまった。

心の底から彼と親御さんに申し訳なく思いました。そしてしばらく凹みました。
彼に会ったら謝りたい。けど会ったらなんて言えばいいんだろう。そんな事を頭の中でグルグル回ってました。勝手な俺の気持ちで大人の理不尽さを押し付けてしまった。

その思いが腹の奥底に溜まりに溜まり、ジムの会員さんであり、僕の恩師でもあり、キッズクラスのアシスタントコーチもやってくれる先輩と飲みに行き、思いをぶちまけました。
「俺、とんでもなく理不尽な思いをさせちゃったかもしれないです」
その先輩はアシスタントコーチもやってるので、当然その瞬間の場も居合わせていました。
そしてこう言いました。

「僕ね、理不尽なこと、社会に出たらいっぱいあるでしょ。彼には理不尽なことを学ぶ良い機会になったと思うんだ。マサノコーチが教えてきたことは、辞めちゃったとしても、彼には良い経験だったんだよ。大人になるにつれて、理不尽なことなんてこれから全然あるんだから。彼には良い勉強になったんだ。全部ムダにはならないよ」
そう言われて、少しだけ救われた気分になりました。

先日、ニュース番組の野球コーナーで、元千葉ロッテの名キャッチャー、里崎選手の言葉で
「今の若い子達の方が理にかなった練習方法だから技術からなにからすべて昔よりレベルが高い。けど、俺たちは理にかなってない『理不尽』な練習を沢山乗り越えてきた。そんな人間からすると、今の選手に貪欲さみたいなものは感じない」
と言ってて、ふと辞めてしまった男の子のことを思い出しました。
理不尽はダメだけど、受け手にとってはそれも必要な時がくるのかも。

先週の日曜日、キッズクラスの子供たちが4人デビュー戦に挑みました。
結果は1人は負けてしまいましたが他の3人は貪欲に勝利を求め、勝つことができました。
「僕の教え方は、人を勝たせられる教え方ではあるのか!」と思い、報われた気持ちになりました。
そして、理不尽なことを経験した小4の男の子にも、今後起こる理不尽なことをなんとか乗り越えてほしいと思う、38歳なのでした。